logic system continued.

http;//d.hatena.ne.jp/hello-m/ ではてなダイアリーで12年間書いてたブログ『logic system』から引っ越してきたので、その続き、という意味での『continued』。

abc〜かく戦えり〜Pt.7

【回想】

今にして思えば、他人に正解されてもどのみち終わってしまうのだから、誤答を覚悟でもう一度だけ勝負をかける、と言う戦い方もあったかもしれない。事実、普段の自分は、「一度も答えられずに負けるよりはボタンを点けて帰りたい」と考えて、実際にそうしていたかどうかは別としても、それを選択肢として考慮していただろう。ただ、「誤2」の予選も含めて、ある程度正解が出せていたことに加えて、この勝負はそんなに短期で決する事は無いだろうと考えて、わかる問題が来るのをじっと待っていた。しかし、結局それは最後まで叶わなかった。「平城京」「かけつけ三杯」「ベータカロチン」「おてもやん」「ズンドコ節」と、勝負どころはいくつもあったのに、どれもものにする事が出来なかったのは、ひとえに自分の力不足、詰めの甘さとしか言いようが無い。クイズをしている間も周りの状況はほとんど意識に入らなかったし、誰が何を正解して、何ポイント持っていようと、連答が出たらいっぺんで状況が変わるんだから、そんなことはどうでもよかった。いや、頭に入らなかったと言うのが正しいだろう。他の何かに押されたのではない以上、敗因は自分にあるとしか言いようが無い。

つまりは、自分に負けたのだ。

自分の誤答で失格していたら、敗北が自分の責任であることは明らかであるため、負けは負けでもまだ割り切れたかもしれない。それが全力でぶつかった結果である訳だし。ただ、4ポイントまで乗せたことによって、明らかに勝ちを意識し始めていて、自分の中で何かが変わっていたのだ。と言うかそもそも、2×失格と言うルールに臆することなく、アグレッシブに、しかし確実に正解を重ねていくことがすべてだ、と考えていた時点で、普段と何かが違っていたのだと思う。

勝ち抜ける事よりも、悔いの無い戦いをしたいと思っていた。だから、勝ち抜けはあまり意識してしなかったと言うのは本心だった。しかし、なまじ4問も正解して優位に立ってしまい、勝ち抜けの芽があっただけに、それを掴み取ることが出来なかったのが、本当に悔しい。傍から見れば、昨年は予選を通ることすら出来なかった人間が、参加人数も増えて倍率も上がった中で予選を通過して、下位組ながら勝ち抜けにリーチをかけたと言うのは、大健闘と言える戦いだったかもしれない。だが、悔いの無い戦いをしたい、と言う最大の目標は、叶うことは無かった。特快勢が好調だから、特快の面子で次のラウンドを埋め尽くしてやる、と言う思いに叶うことは出来なかった。特快の面子や、応援してくれた人達の声援に応える事は出来なかった。

クイズに対して本気になるのはこれが最後だ、と公言していた。しかし、これほど悔しい戦いをしてしまうと、どこかでその復讐をしたくなる。だが、それほど熱くなれる目標は自分にとってはもうどこにも無い。そしてそれ以上に、またどこかで復讐を、と言い続けて、その結果として今より先に進めたとしても、その先で負けたらまた悔いが残るだろう。万が一、どこかの大会で優勝できるようなことになったとしても、それはゴールではなく、その先の何かを追い求めてしまうだろう。どうなろうと、結果の先にはまた新たな挑戦がある。そんなことをいつまでも続けていたらきりが無い。だから、予選突破と言う目標を達成し、全力でぶつかって玉砕した以上、多少の悔いがあったとしても、ここで一つの区切りとするべきなのだろう。

【3R・Number 10】

2Rが終わってからは、ネームプレートを席において、会場を出て階段に座り込み、人目もはばからず肩を落とした。なまじ惜しい戦いをしてしまったものだから、ショックが激しすぎて、とてもじゃないけど次のラウンドを直視する事は出来ないと思った。クイズをやめるなんて言うつもりははなっから無かったけど、「続けられない」と言う思いが去来した。せっかく努力が実ったのに、と言われるかもしれないが、その時の感情はそれほどまでに抑えきれないものだったのだ。ずっと平野君がついてきてくれている。なぐさめてくれようとしているのだろうが、とてもじゃないがそれどころじゃなかった。申し訳ないと思いつつ、今は1人にして欲しかった。

しかし、飲み物を買って外に出て、空を仰いだ時に思った。特快の面子があれだけたくさん勝ち上がっている。あいつらの戦いを見届けない訳にはいかないじゃないか。重い足取りだったが、考えを改めて会場に戻り、真っ先に渋沢の元へ向かった。

自分の無念を託す相手として、迷わず渋沢を選んだ。高校時代から共に同じ場所でクイズを続けていて、こいつがいなかったら、俺は今ほどクイズをやっていただろうか、と何度も思った。このabcの舞台で共に戦うことが最大の望みだったが、それはもはや叶わぬ願いである。

「仇取ってくれ…頼む」

涙ながらにその一言を告げるため、戻ってきたようなものだった。

席に戻った時に気づいた。大須賀がそこにいる。去年は30位でペーパーを抜けていた大須賀が、今回は予選落ち。その姿を目の当たりにした瞬間、正直、どうフォローしていいかわからなかった。大須賀がabcに対してどこまで本気だったのかはわからないが、予選落ちは本人にとってショックだったはずである。自分は自分の戦いに精一杯で、そんなフォローすら出来る状態では無かったのだった。なんともやりきれない。

(続)