abc〜かく戦えり〜Pt.9
【3R・Number 10 / 10 up-down】
参加候補者(選択優先順位順)残り10人 (1抜)[25]渋沢 潮 (2抜)[ 3]石野将樹>[13]阪本諭史>[22]高村光貴 >[32]丸山泰弘 (3抜)[ 4]米谷聡史>[ 6]森田隆太郎 (4抜)[ 8]夘野道拓>[19]土屋敬蔵 (5抜)[27]斉藤修啓
引かれたくじは「10 up-down」。ここでようやく、去年と形式の順番が入れ替わる。エントリータイムの開始と同時に、今回はエントリーする人間としない人間がはっきりと分かれ、あまり変動は見られない。森田が怪しい動きを見せるが結局上げず、タイムアップ時に上げていたのは6人。今回初めて定員オーバーとなり、選択順位最下位の斉藤がはじき出される結果となった。去年は誤答を重ねて自滅した石野がいる…大丈夫なのか?そして実力がいまだ未知数の、九大の阪本に名大の丸山。続いて本人も驚きっぱなしのペーパー8位・夘野、最後に昨年の10 up-downで、高1にして唯一ノーミスで勝ち抜けた土屋が入る。ん、あれだけいた特快勢はどうした?と、残った面子を見ると、特快が4人、それに米谷。米谷ゲストの特快の例会じゃねぇか…って言うかこの後この面子で潰し合うのかよ!そっちの方が不安だった。
◇10問正解で勝ち抜け。 ◇1回目の誤答は正解数がリセット、2回目の誤答は失格。 ◇15分経過後勝ち抜け者が2名に達しない場合は、 「最終ポイント→早押しサドンデス」で順位を決定。
去年の10 up-downは最初の2問でいきなり誤答と言う、形式に似つかわしくない荒れた展開だったが、今年は無事に正解でスタート。しかし、この形式で初の誤答を出したのは、去年あれほど安定していた土屋。しかもなんとこのまま土屋は2回目の誤答を出し、一度も正解を出せないまま失格。波乱はこんなところに待っていた…と言うより、一体どうしてしまったと言うのか。会場にいる誰もが驚きを隠せない。あまりにも早い失格だったため、実質的に4人での戦いとなってしまった。
得点は全員、少しずつ積み上げる展開。だが「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「隔靴掻痒」などの渋い答えを見せ調子づいた夘野が、勇み足で誤答してしまいリセット。あとの3人のうち誰が行くか、と言ったところで石野が「フェブラリーステークス」を誤答、なんと7○から一気に崩れ落ち、悪夢再びか、と思わせる。こうなると有利なのが石野と正解数を分け合っていた阪本・丸山の2人。2人とも9○まで乗せリーチをかけ、夘野と石野が強烈な追い上げを見せるものの、誤答も無いこの2人がこのまま勝ち抜けて終わるだろう、と言うのが誰の目から見ても明らかだった。だが、何を思ったか、丸山が「アルタミラ」を「ラスコー」と誤答、会場から悲鳴が上がる。誤答の内容は惜しいのだが、そんな勝負をかける必要は無かったはず。これで石野や夘野にもチャンスが芽生えてきた。
その後、阪本が落ち着いて「ラ・ヴィ・アン・ローズ」を答え勝ち抜け。この荒れ場にあって、極めて危なげの無い勝ち抜けである…と言うか本来ならもうここで勝負が終わっていたはずだ。残りの3人は全員誤答を抱えているが、丸山が連答に連答、しかも早いポイントでの押しを重ね、他を圧倒する。一度の誤答で全てが水の泡になると言うのに、どうしてここまで追い込まれてこの押しが出来るのだろうか。誤答した後の18問のうちに一気に6○まで持ってくるが、その間に夘野と石野が共にリーチをかける。猫の目の如く変わる戦局はこの2人の睨みあいに移るが、丸山の勢いを見ると、大逆転もありえる…『女性が飲み過ぎてしまいやすいため「レディキラー」/』動いたのは…夘野!
「…ソルティードッグ」鳴ったのは誤答のブザー。会場から、丸山の誤答の時をはるかに超える大きな悲鳴。「なんで酒飲めない奴が酒の問題押すんだよ〜」と、自分も思わず叫んでしまう。夘野と石野の硬直状態に丸山が迫り、たった1問で運命が決まるこの局面はまさしく精神戦。ここを勝負どころと見た夘野が、先手を取りに行って打ち違えてしまった、と言ったところだろう。(正解は「スクリュードライバー」)
そして石野がほぼ安泰、と必ずしも言えないのがこの勝負の怖いところ。丸山の勢いは止まる様子を見せないことから、一番の正念場を乗り越えた石野は、あとはひたすら待つしかない。そのまま丸山は8○まで乗せる。いよいよ石野も危なくなってきた。一度の誤答で失格のため、互いに攻めようにも攻めきれないカタルシスの中、迎えた次の問題…『悪酔いを防ぐと信じられていたことから、ギリシャ語で「酔わない/』そして、ついに石野が沈黙を破る。「アメジスト!!」
まさしく精神戦だった。正解を出せる出せない、知識量やカンなどよりも、あの荒れ場に精神的に耐えられるか、と言ったところが大きかった。丸山のリカバリーは驚異的だったが、そもそも9○での誤答が無ければ…と考えると、戦局を見誤ったとしか言い様が無い。また、夘野は精神的に追い込まれて、無理な勝負を強いられたと見えてしまう。最終的には、耐えに耐えて、それでもなお手が完全に凍ること無く、最後に押す勇気を持った石野に、勝利の女神は微笑んだ。誰もが認める名勝負だったと言えるだろう。
3rd |
13th |
32nd |
8th |
19th |
早稲田2年 |
九州3年 |
名古屋4年 |
千葉2年 |
開成高2年 |
石野 将樹 |
阪本 諭史 |
丸山 泰弘 |
夘野 道拓 |
土屋 敬蔵 |
10pts. (17○1×) |
10pts. (10○0×) |
8pts. (17○1×) |
失格 (12○2×) |
失格 (0○2×) |
WIN |
WIN |
【3R・Number 10 / 10 hits combo R】
参加候補者(選択優先順位順)残り5人 (1抜)[25]渋沢 潮 (2抜)[22]高村光貴 (3抜)[ 4]米谷聡史>[ 6]森田隆太郎 (4抜) (5抜)[27]斉藤修啓
前述の通り、特快での潰し合いに米谷がからむ形となってしまった。逆に言えば、特快勢同士の真剣勝負が見られることになる。4年生4人、3年生1人の大激戦区。そして…つい1時間前に仇討ちを頼んだ渋沢が、ここにいる。
◇1問正解で連答権獲得、2連答した場合は+2ポイント、3連答した場合は+3ポイント。 4連答達成、もしくは合計10ポイント先取で勝ち抜けとなる。 誤答は、誤答回数分の問題数休み。失格はない。 ◇連答権は自身の誤答もしくは他人の正解で喪失、スルーもしくは他人の誤答では維持。 ◇15分経過後勝ち抜け者が2名に達しない場合は、 「最終ポイント→早押しサドンデス」で順位を決定。
この形式、内輪で何度シミュレーションしても、連答による勝ち抜けは出なかった。今回の形式で、2人も勝ち抜けが出やしないだろう、と思っていた。5人全員が連答を狙って攻めてきて、さらに相手の連答は止めに来るとなると、連答は余計に出にくくなる。誤答は回数分の休みだから、何人も誤答を重ねて、休みが頻発して誰も止める人間がいなくなる後半に攻めるしかない。それが自分の想定していた戦略だった。…だが。
『「自分は、未だ完成していない」という思いから、名前の後に「、」を/』「藤岡弘、」
『北海道河西郡芽室町が発祥地で、/』「ゲートボール」
『標高1893メートルの北海道にある山で/』「羊蹄山」
まさか。
『サンドイッチに挟む「BLT」で、Bは/』「トマト」
わずか2分足らず、開始からたった8問の出来事だった。会場全体が驚嘆の声に包まれ、司会からすら次の言葉が出てこない。そんな中で、ただ1人落ち着いていた者がいた。4連答であっと言う間に勝負を決めた張本人、高村光貴である。感情をあらわにすることもなく、さも当然のように解答席を去っていった。そしてまたも、勝負は早々と4人での戦いとなった。だが、勝ち抜けるのは2人ではなく、たったの1人。
そして戦いは再度動き出した。羊頭狗肉を自称する渋沢が「羊頭狗肉」を正解すると、『本名の頭文字であるMと、救世主という意味の「メシア」、そして「アジア」をつなげた/』で米谷が「MISIA」を正解。芸能は2人の得意分野であり、渋沢の連答を潰した上で米谷がチャンスをモノにする。この展開がしばらく続くが、「あやとり」「ステイヤー」「ゴルゴダの丘」などが目を見張るようなポイントで押される。そのまま戦いは激化した。互いの連答を止めようと、正解・誤答を繰り返す。10 up-downに進む予定だった斉藤は不本意なコース選択となってしまったせいか、この争いについてゆけず誤答を重ねる。そして森田は勢いで押し切ろうとするも、精度に欠ける解答が多く、休みが重なっていく。この形式での過剰な攻めは、自分にとってマイナスにはならないものの、解答権を持つ者が減ることによって、相手にとってあまりにも有利になってしまう。ポイントを叩き出せないまま5回もの誤答を重ね、都合15問に渡る休みを背負うことになった森田は、あまりにもそのことを理解していなかった。
気がつけば、戦いは渋沢・米谷の2人に絞られた。だが、米谷の正解がなかなか連答につながらず、誤答も抱える中、渋沢は3連答を決めて圧倒的に有利な状態。一度目の3連答からは渋沢はあまり動かなかった。4連答が決まればあっと言う間にひっくり返るが、あとの3人が連答阻止、そして勇み足の誤答を繰り返すこの荒れ場の中では、動く必要も無かった。そして決め手となった問題。『熱の伝達の方法は3種類ありますが/』「…放射!」このきわどい正解が、勝負の流れが渋沢に向いている事を予感させた。続いて「マロングラッセ」の連答で9ポイント。時間はまだまだ残っているが、このままで終わってしまえばトップはほぼ確定だ。そして次の問題。
『昨年11月28日、アメリカ人の代理母による双子の/』「向井亜紀!」
ほぼ差込のような得意ジャンルを引き寄せての勝利。振り返ってみれば9○0×、ほぼパーフェクトなプレイスタイルでの勝ち抜けだった。高村の勝ち抜けは文句がつけようが無いとしても、明らかに確実性を捨て、勝負に徹した3人に対し、渋沢は攻めどころと守りどころを明確に分けていたように見えた。この形式を最も理解した上での勝ち抜けと言える。
終わってみれば、県船(千葉県立船橋高校)ワンツーフィニッシュ。そう言えば高校時代から、こいつら強かったっけ…俺ずっとこいつらの後追っかけてきて、結局今になっても追いつけなかったんだよなぁ…。観戦してた時は素直に応援してたけど、やっぱしいつまで経っても、俺はこいつらには勝てないんかなぁ…。
25th |
22nd |
4th |
6th |
27th |
電気通信4年 |
千葉4年 |
東北3年 |
早稲田4年 |
東京4年 |
渋沢 潮 |
高村 光貴 |
米谷 聡史 |
森田 隆太郎 |
斉藤 修啓 |
10pts. (9○0×) |
10pts. (4○0×) |
4pts. (8○2×) |
0pt. (3○5×) |
0ot. (0○3×) |
WIN |
WIN |
【休憩】
休憩中に、いろんな人に声をかけられた気がする。「今まで松君がマンオブ対策とかやってきて、abcにも対策してきて、それの積み重ねがやっと実ったんじゃないかな」「努力は必ず実るとか言う気は無いけど、努力の結果は確実に表れたんだよな」そう言われてみると、abcに注いだ1年間だけではなくて、もう1年半近く前になるマンオブ(=Man Of The Year。学生限定の大会だが学生連盟の主催であり、問題の性質がabcとは異なる)にも対策をしてた訳で、それも少なからずこの結果に影響はしてるんだよな。心のどこかでずっと、何バカやってんだろ、と思うこともあったけど、少なくともその甲斐あって、ペーパーは通過出来た。だが、不本意ではある。どんなに「よくやった」と言われようと、あと一歩で2R突破を逃したのは、自分の詰めの甘さと言わざるを得ない…などと話していると、大会主催者の片岡氏がやってきた。気になったので思わず聞いてみた。
「ペーパー何点だったんですか?」
「62点。」
「(ボーダーかなり下がったんだな…)ちなみにボーダーは?」
「62点。」
「…は?」
なんとボーダーの62点で10人以上が一気に並んだとのこと。つまり少なくとも40位から48位までは全員が同じ点数で、連続正解数で順位が分かれたと言うことだ。そう考えると、ペーパーを解いていた時には軽く意識した程度だった連続正解数が、実はとてつもなく大きいファクターだったのだ。そしてそれ以上に、1問の重みを強く感じ、ぞっとした。もし「歌会始の来年の題」を調べていなかったら。もしマニュアル2を知人に借りて、「ドットマップ」の問題を読んでいなかったら。そして、情けなくなった。あれだけやった結果がこんなギリギリのところだったとは…。努力は実ったが、詰めが甘かった。2R敗退の悔しさは落ち着いていたものの、違ったところで自分に対する憤りを感じていた。
「誤2準決勝に進出されている方は召集でーす」
「おら行くぞお前ら!」かなり乱暴な口調で言った気がする。そう、戦いはまだ終わっちゃいない。
(続)